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発達障害は伝統的子育てによって本当に予防・防止できるのか

  • 2012.07.18 Wednesday
  • 06:00
巻頭論文 21世紀の教育ビジョン  教職研修(2012年8月号)  教育開発研究所

上野一彦(東京学芸大学名誉教授/日本LD学会理事長)

5月7日、大阪市「維新の会」市議団が、議員提案を予定していた「家庭教育支援条例案」を白紙撤回した。その背景には、発達障害ネットワークに参画する多くの親の会や自閉症協会などの強い抗議があり、条例の撤回に至ったと言われるが、その問題点についてあえて触れてみたい。

発達障害は親の育て方によって生じるものではない
今回の条例案を初めて目にした発達障害関係者は、大きな驚きと深い悲しみを味わった。これまでさまざまな無理解と闘い、困難な棘(いばら)の道を一歩一歩切り拓いてきたものたちにとって、『発達障害は親の育て方によって生じる』かのような物言いは、科学的に完全に払しょくされた過去の亡霊と呼ぶべき類のものといわざるを得ない。
現代の教育課題というより社会的課題ともなっている「児童虐待」等をとりあげ、その根本原因として、親心の喪失と親の保護能力の衰退と決めつける。多くの人々が心を痛めているテーマを採りあげるところは、機を見るに敏ではあるが、その結論はお粗末の一言である。家庭や社会構造の変化を精神論で解決可能とすること自体、あまりにも単純で幼稚な論理展開である。
 戦後、勤労階層が一気に増え、核家族化の進行により地域コミュニティが壊れたことや、家庭・家族の絆の崩壊により、伝統的な教育像からはかけ離れた多様な問題が起おきていることは誰しもが認めるところである。しかしそうした動向分析から、引きこもりや不登校、虐待、非行などの増加を列挙する一方で、不確かな知識を基に発達障害について誤った指摘をする。
発達障害のある子どもたちの場合、彼らに対する無理解や対応のまずさから、いじめにあったり、不登校や非行に追い込まれることも少なくない。それは親の育て方ではなく、むしろ彼らを取り巻く家庭・学校・社会環境そのものをどのように整え、改善していくかであって、単に親のこころの在り方だけの問題ではない。
わが国では学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症などを総称して、法的には発達障害というが、こうした子どもたちは彼ら自身の発達そのものに特徴があって、その個性的な存在となることが知られている。かつて自閉症の原因論として、『親が愛情を持って接していないからだ』など、いわゆる心因説、環境説がまことしやかに流布された苦い思い出がある。こうした「親の関わり方」や「育児の失敗」、「テレビの見過ぎ」など・・・およそ今では誰も言わないようなことが原因として挙げられ、その矛先が親、特に母親に向けられることも多々あった。こうした的外れな指摘がどれほど親や家族を苦しめてきたか、その歴史を教育や心理を専門にするもなならば誰でも知っているはずである。
 
二次的障害の防止との混同
発達障害の場合、それを軽度障害というべきではないという見解を多くの専門家は持っている。なぜならば身体障害や知的障害と比べインビジブルな発達障害はどちらかといえば「見えにくい障害」という特徴があり、それゆえに理解や対応に遅れと困難さが伴いがちだからである。
発達障害のある人が、周囲の理解を得られず、家庭や学校・職場でたくさんの誤解、叱責、いじめなどを受け、もともと持つ本来の障害とは別に、二次的に心理的なプレッシャーから問題を抱えてしまったり、困難さを増幅させてしまったりすることがある。これらは二次障害と呼ばれるもので、適切な理解と対応によっては回避することもできるわけで、支援プログラムではこの二次障害の緩和を最初の環境調整や指導目標にすることはよくある。
また、一般にさまざまな虐待やネグレクトのケースを見ると、やがて周囲との関係性がとれなくなり、一見、自閉症と似た症状をみせることもある。そうしたときは、虐待という環境そのものを改善し、育て直しをすることで解決できるケースがある。この条例案では、その虐待等によるものと、発達障害への無理解と不適切な対応から生ずる二次障害とを混同しているところに最大の問題がある。
今回看過できない点は、発達障害、虐待の予防・防止の基本と題する第15条『乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因であると指摘され、また、それが虐待、非行、不登校、引きこもりなどに深く関与していることに鑑み、その予防・防止をはかる』にある。
 これでは親の育て方次第で、発達障害が予防・防止可能なように見える。繰り返しになるが、発達障害は『乳幼児期の愛着形成の不足』が原因になって起こるものではないということをはっきり言っておきたい。発達障害は子ども自身の発達に要因があり、親の育て方の問題ではない。

「親学」に名を借りた、勇み足を超えた大いなる踏み外し
条例案には、民間の、親の学び、親になるための支援ネットワークの構築推進、さらに「親学アドバイザー」など民間有資格者の育成支援が謳われているが、どうもこの「親学」なるものがその背景となっているようだ。ところでこの「親学」なるもの、もっともらしさの半面、一方的で表層的な常識内の主張であることを強く感じる。
では、教師をはじめ、発達障害の子どもに関わる者は、どう考え、対応していけばよいのだろうか。「子どもの状態を正確に知る」ということが、科学的な理解・対応の第一歩である。一見、自閉症のように見えていたけれども、実は家庭環境に虐待などの問題がある場合であれば、教育が福祉と連携をとりながら、具体的に対応していく必要がある。
支援やサービスは、利用しやすく、効果がなければその名に値しない。そこには専門性に裏付けられた深い科学性がなければならないことはいうまでもない。古い指示的カウンセリングのように、一方的に親のあるべき姿を声高に述べたり、説得したりするところからは、子どもを育てる豊かな環境は育たない。浅い知識でこのような論理展開することも安易すぎ、これは「親学」に名を借りた、勇み足を超えた大いなる踏み外しである。
親を責めるのではなく、その親たちが安心して子育てできるように、子どもの状態や背景を科学的に見通し、医学や福祉などの諸機関と連携しながら、本人も親もしっかり支えることのできる環境づくりこそが根本的な解決につながる。
混迷する現代、親から受け継いできたよりよい伝統もまた反映されにくくなってきている。時代錯誤的に逆戻りするのではなく、新しい時代の変化の中で互いに支え合える環境を作り出すことが大切である。今回のことを契機に、発達障害に対する深い理解と正しい対応についての知識が、全国に広がっていくことを心より願うものである。(了)

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